中国に伝わる伝説梁山伯と祝英台の愛情物語をご存知だろうか。豪傑が集まる水滸伝の梁山泊と間違えやすいが、中国版ロミオとジュリエットともいわれる物語である。だが、中国のほとんどの人たちは伝説と受け止め、真実かどうか、関心を払っていない。

実際には中国各地に二人の墳墓、学問所と伝えれるもの複数点在する。ならば梁山伯と祝英台は本当にいたのか?

定年後、中国留学した私は梁山伯と祝英台の伝説(梁祝文化)を確かめようと各地を調べた。
中国の研究者によれば、二人のゆかりの墳墓、学問所、廟すべてを巡ったのは私が初めてらしい。


梁祝伝説に接したのは留学後だ。高校教師だった私は、観光で訪れた中国の熱気に興味を持ち、四年前の定年を機に北京外国語大学に留学。ゼロから中国語を始めた。語学力がつき始めたころ、教科書に出てきたのが梁祝伝説だった。物語を紹介してみよう。

祝英台は教育を受けるためやむなく男装して杭州の学校に入り、梁山伯と義兄弟になる。
政略結婚のため故郷に戻された祝英台を訪ねた梁山伯は、義兄弟が女性と知り、
彼女と結婚できない辛さから病死。
祝英台の結婚の行列が梁山伯の墓前まで来ると、
雷鳴とともに墓が割れ、彼女はその中に飛び込む。嵐がやむと一対の蝶が舞っていた。


日本ではあまり知られていないが、中国では有名な物語だ。授業で中国文化を調べる課題があり、「梁祝伝説を取り上げよう」と決めた。

この伝説に対する中国人の意識を探るアンケートをした後、連休を利用して杭州に出かけた。手がかりとなる地名といえば杭州しかなかったからだ。

家庭教師をしてもらっていた中国人学生の親友が現地にいると聞き、彼女たちも同行した。


偶然にもこの親友の家は杭州から少し離れた上虞市の祝家庄にあった。祝家の故郷を意味する地名だ。
上虞市からさらに行くと寧波市。
そこには梁祝文化公園があった。
祝家庄に史料はなかったが、地元の人たちは祝英台の出身地だと言う。

一方、寧波の公園には1997年に発掘され、晋代のものとされる梁山伯の墳墓がある。




梁祝伝説の最古の記述は「金楼子」(552?554年の間に出版)にある。
さらに1107年、寧波の李茂誠・府知事が石碑「義忠王廟記」に「梁山伯は352年に生まれ、373年に死去。祝英台の嫁入りは374年」と刻んだ。
研究者は八割の確率で梁祝伝説は寧波で生まれたと見る。私も地理関係から梁山伯は寧波、祝英台は上虞の出身と推測している。


ただ、寧波の梁祝文化公園の展示室で「墳墓は十ヵ所、二人が学んだ学問所は六ヵ所、梁山伯の廟が一ヶ所ある」とあった。千六百年以上も語り継がれ、今なお大きな影響力を持つ梁祝伝説とは何だろう。さらに実地踏査することを決意した。

休日があれば、ゆかりの地を訪ねた。北京に近い河北省河間県から、遠くは甘粛省清水県まで。だが、地元の人ですら墳墓や学問所の場所を知らないケースがほとんど。昔のことを知る古老がいると聞けば訪ね、行く先々の県や市の文化局にも行ってみた。梁祝伝説を追ったテレビ番組を制作した放送局があると知り、ディレクターを訪ねたこともあった。

結局、実在する墳墓は寧波のほか、江蘇省の宜興市、河南省の汝南馬村の三ヵ所だけ。廟があるとされた接待寺には行ったが廟そのものは見つけられなかった。学問所も特定できなかったが、杭州にあったと私はみる。当時の杭州は学都として知られていたうえ、梁山伯と祝英台は学校に入学するための旅の途中で出会っている。二人の出身地を考えると、彼らは杭州に向かったはずだ。




梁祝伝説は愛情伝説として知られるが、実は清廉な役人・梁山伯の物語という側面もある。
それを教えてくれたのは、梁祝文化研究会の周静書会長だ。梁山伯は故郷で知事に推挙され、河川整備などにあたり、過労で病死したとある。汚職がまん延する中、清廉潔白な役人だったという。

梁祝伝説の輪郭がおぼろげながら見えてきた。


二人とも杭州で学び、祝英台との結婚を諦めた梁山伯は役人となって病死。
嘆き悲しんだ祝英台は墓前で自害した。杭州には全国から学問を志す若者が集まっており、二人の逸話をそれぞれの故郷に戻って伝えた……。

踏査の記録は大学の卒論にし、日中対訳の「梁山伯祝英台伝説の真実性を追う」と題して日本で出版した。

梁祝伝説にはまだ謎が多い。
帰国後、梁祝文化研究所を立ち上げた。
日本でもこの物語が知られるよう尽力したい。

 


「梁山伯祝英台伝説の真実性を追う」価格1900円税別

中国版「ロミオとジュリエット」ともいえる日本ではまだ知る人の少ない美しい愛情物語
悲恋の物語を日本に正しく知らしめようという壮大な目的をもつシリーズ第一弾。
著書が伝説の真相を解き明かそうと中国全土をめぐり踏査した結果をまとめた論文でもあり
取材の旅を記録したドキュメンタリーである。

訳書「小説梁山伯と祝英台」価格2000円税別

中国版「ロミオとジュリエット」ともいえる日本ではまだ知る人の少ない美しい愛情物語
悲恋の物語を日本に正しく知らしめようという壮大な目的をもつ梁祝三部作第二弾。
原ストーリーの優しさ美しさを忠実に伝えている。

訳書「梁祝リャンチュウ口承伝説集」価格2800円税別


中国では知らない人はいないだろう何千年も昔から黄河をわたり
語りつがれてきた「梁祝伝説」。広大な中国の大地さまざまな変貌を遂げた愛のかたち。
55の梁祝伝説がここにそろった。