モンゴル高原は東アジアの北に位置する平均標高1000〜1500メートルの内陸草原地帯で、中央にはゴビと呼ばれる乾燥した沙漠がひろがっている。東には興安嶺、西にはアルタイ、天山の両山脈を抱き、北はタイガの森が果てなく続くシベリアの冷涼地である。歴史的・政治的に現在のモンゴル国と中国領の内モンゴル自治区にまたがっているが、この両方あわせた一帯が古来からのモンゴル民族の居住地帯だった。





この広大なモンゴル高原に6つの河が流れている。オノン、インゴタ、ヘルレンの3つの河はやがてアムール河(黒龍江)に合して間宮海峡に注ぐ。トウラ、オルホン、セレンゲはバイカル湖に入り、さらにエニセイ河となって北流するのである。

いまからちょうど800年前の1206年春、6つの河のうちのひとつ、オノン河上流の畔の草原で、ある大会議が開かれた。

モンゴル語でクリルタイと呼ばれるこの会議で、モンゴルの一部族の長だったテムジンという名前の齢44の男が全モンゴルの最大権力者である大ハーンに推された。チンギス・ハーン(成吉思汗)の誕生であり、モンゴル国建立の瞬間であった。


チンギス・ハーンはクリルタイの式典に集まった数万の群集を前に、次のように演説をおこなった。「上天より命あって生まれた蒼き狼があった。西方の大湖を渡って来た惨白い雌鹿があった。その二匹の生きものが営盤して生まれたのが、モンゴルの祖バタチカンであった。モンゴルは蒼き狼の裔である。その蒼き狼を中心にして、蒙古高原の帳幕の民二十一部は、今日ここに一つの力として結集したのである。……余を信頼せよ。余の命ずることを為せ。勇ましく猛き新しい国家モンゴルの狼たちよ」(井上靖『蒼き狼』新潮文庫版より)

チンギス・ハーンと後継者たちがユーラシアを席巻し、西はペルシャからヨーロッパの端まで、南はヒマラヤ・カラコルム山脈以北からインドシナ半島の一部、東は朝鮮半島まで版図に収めたのは歴史に詳しい。13世紀、チンギス・ハーンの孫のフビライ・ハーンが日本の九州に二度にわたって遣いをよこし、隷属を迫ったのは、元冦(文永・弘安の役)として私たちはよく知る。その時はうまく神の風が吹いて退けたが、現代の日本の相撲界に元冦が再来しているのはご存じのとおり。やがてモンゴル二人横綱に席巻されるだろう。

つい先日、退任近いわが国の首相がモンゴルを表敬訪問したのは記憶に一番新しいところだ。


モンゴルを代表する民族楽器といえば馬頭琴(モリンホール)。モンゴル語名もずばり馬の楽器という意味だ。日本では『スーホの白い馬』(大塚勇三再話 /赤羽末吉絵、福音館書店)という40年ほど前に出版された絵本でこの馬頭琴が紹介され、最近では同じ話が小学校の教科書にも載っているというのでこの楽器を知っている人もかなり多いのではないかと思う。

膝にはさむようにして支える共鳴胴、棹、糸巻きは白樺や松などの木から作られ、馬の毛を束ねた二本の弦を張り、馬の毛の弓で弾く。棹の上部には名前の元ともなる彫刻された馬の頭部がつけられる。モンゴル音楽はこれなしには成り立たないというくらい主要な楽器だ。

馬頭琴の音色を聞く
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代表的な調弦は低い方がF、高い方がB♭という五度調弦。
ハルハ調弦というらしい。音域は中音域で、西洋楽器チェロのそれに近いので、「草原のチェロ」とも称されている。
たしかにこの楽器の朗々とした音は、それが馬の毛から紡ぎ出されるだけに、草原によく似合う。
また早いパッセージで馬の早駆けの様子をまざまざと表現したり、馬のいななきまでそっくりに弾きならしたり、実に馬の楽器の面目躍如である。それもこれも、馬の国モンゴルで生まれ親しまれ、発展改良されてきた楽器だからこそに違いない。



いまぼくの手許にある馬頭琴はなんの装飾もないシンプルなものだが、もう10年以上も前に日本に演奏旅行にやってきたモンゴル人のプロ奏者から、モンゴル人後輩の縁があって譲り受けたものだ。長い間に乾燥で弦がバラバラになってしまったり、弓も切れたりしてしまっていたが、先年モンゴルを訪問した際に新しい弦をもとめてきて張り替えた。

日本でもそうだが、モンゴルを訪問した際にも馬頭琴の演奏はホールなどの建物の中でしか聴く機会がなかった。今度モンゴルを訪れる時には、ハーブの香りが風に匂う草の海に寝転んで聴いてみたい。きっといつの間にかまどろんで、ユーラシアを馬で駆け抜けた古人と同じ夢を見られるかもしれない。


今回も最後までご愛読ありがとうございました。
予定では「セルビアの一弦琴グスレの物語」を見ていただくつもりでしたが、
モンゴルがちょうど建国800年を迎えて賑わっているので代えました。
モンゴルはいいところですよ。ぜひ一度は訪問してみてください。
 ブログ・写真日誌[旅の香り]http://fuefukin.exblog.jp/もあわせてご覧ください。