| そんな中にあってコリドー街の真ん中あたりにある、“蛙たち”と云うシャンソニエの斜め前で、銀座ならではの大人の空気感と本物のアールヌーボーな空間を守り通し孤軍奮闘している店がある。
“わいんばー・ギンザ”である。ここに通い始めて30年になるが銀座に愛着がある私にとって貴重な隠れ家でありオアシスでもある。この店はBGMが流れていない。ワインは会話を楽しむ、会話に弾みをつける特技を持っている。ワイングラスの触れ合う音と客の洒脱な会話が格好のBGMとなって心地よい。
学生時代から歌舞伎の魅力に引き込まれ、歌舞伎は勿論であるが日本の伝統芸能に造詣が深い店主の薀蓄についつい引き込まれてしまうのが悔しい。店主のサービス精神と遊び心の表現として時々、お客様の琴線を揺さぶるこだわりのライブを開催している。ある時は、人形浄瑠璃の辻村ジュサブローライブ。またある時は、鶴賀喜代寿社中の新内ライブ。時にはお洒落なジャズの弾き語りやピアノのソロライブ。店主独特の感性でセレクトしたプログラムだけに好評だそうだ。
先日、久しぶりに、コリドー街を歩き“わいんばー・ギンザ”の階段を下りた。
馴染み深い空気と店内を照らす渋い灯りに心が和んだ。ワインを飲みながら店主とのジィジーなよもやま話が弾み寛ぎのときを楽しんでいた。
こだわりライブに話が及んだ時、この店の雰囲気なら、ポルトガルに生まれた民族歌謡のファドもいいね!と話したところ、アマリア・ロドリゲスが好きで隠れファドフアンであると店主が目を輝かせて話し始めたので、私の知人で月田秀子さんという日本を代表するファドの歌い手がいるけれど云うと、是非ファドのライブを実現させたいので本人に打診して欲しいと話が一気に盛り上がったのである。
その夜、早速ファドの達人に電話をしたところ、何よりものワインが好きだし30年も通っているのならきっと素敵なお店でしょうね。是非話を進めてほしいと急進展となった。それから数日して、月田さんがコリドー街まで出向いて店を覗いた。店主をサポートし切り盛りをしているご子息は、ファドの達人が突然現れたことに驚きと感激が交差したそうである。
フランスのシャンソン、イタリアのカンツォーネ、アルゼンチンのタンゴ、黒人のブルース、それと同じようにファドは、人間の心を歌う哀惜の満ち溢れる情念が魂を揺さぶる。アールヌーボーな雰囲気の中で織りなすワインとファドは絶妙なマリアージュ。本物の銀座の夜とワインとファドで至福のひとときが堪能できる“月田秀子ライブ”は、6月5日の土曜日17時から開催される。熟成されたファドとワインで心を覚醒してみようと好奇心が騒ぎ始め、この日の来るのを楽しみにしている今日この頃である。
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